製作国:日本
上映時間:89分
監督:本多猪四郎
出演:久保明/八代美紀/土屋嘉男/水野久美
小学生の頃読んだ小説に、この映画を元ネタにした「マタンゴ」っていうアダ名の少女が出てくる話があって、見たことはなかったものの矢鱈と印象に残っていた映画『マタンゴ』を、今回初めて見てみました。監督と特技監督は、『ゴジラ』(1954)を初めとしてタッグを組み、数々の東宝特撮映画の名作を産み出してきた本多猪四郎と円谷英二のコンビです。
7人の若者を乗せたヨットが、嵐のため無人島に漂着した。その島を探索した結果、彼らより先に、一艘の難破船が漂着していたことが判明する。だが乗員の姿はどこにもなく、ただあたりは奇妙な形状のキノコが群生しているのみだった。やがて食料の残りが少なくなり、彼らは恐る恐るそのキノコを食し始める。そしてそのキノコを口にした者は、人間の姿を失い、奇怪なキノコ・マタンゴへと変身していくのだった……。
ウィリアム・ホープ・ホジスンのホラー小説「闇の声」を脚色した恐怖映画。エゴの果てにマタンゴに変身していく人間の姿を描く。水野久美の妖しい演技と驚愕のラストが必見。マタンゴのデザインは小松崎茂。
精神病院(?)に閉じ込められた村井(久保明)のモノローグ、「無事に帰ってきたのは僕一人だった……」から始まる本作は、映画開始時点でアンハッピーエンドになることは予測されています。あとは、7人のヨット乗組員たちが、極限状況でどのように人間のエゴをむき出しにし、争い、協力し、それぞれが生き抜こうとして行くのか、という人間ドラマの部分が焦点になります。
本多猪四郎監督は『ゴジラ』の成功のせいで(敢えて「せいで」と書きます)、特撮映画専門のようになってしまった面がありますが、東宝のプロデューサーである田中友幸氏が「(本多猪四郎)は僕がゴジラばかりやらせていなかったら、成瀬巳喜男のような監督になっていたかも」と語っていたという話もある(但し一次資料に当たれなかったので不確かです)ように、細やかな人間ドラマを描くことを好んだ監督だとぼくは考えています。『ゴジラ』なんかでも、ゴジラから逃げる人々の細かな描写をしっかり描いていて、映画に厚みを与えることに成功していますし。そんな本多監督にとって、本作のような特撮もありつつも、人間心理を主題にした映画は腕の振るい甲斐があったのではないでしょうか。
心理描写も見どころの一つですが、一方で特撮部分もさすが円谷英二という出来栄え。序盤のヨットのシーンも、晴天のシーンこそ、「これ、ロケする予算なかったのかなぁ」という気持ちになりますが、暴風雨に巻き込まれてからの特撮は非常に臨場感があります。そして漂流した島の難破船の造形も非常に素晴らしい。そして、何と言っても小松崎茂氏デザインのマタンゴたちの造形は本当に流石の一言。いい感じにグロテスクになっており、そして全身をなかなか映さない演出の妙と合わせて、初登場時に非常にインパクトを与えられます。また、村井の「あいつら半分キノコじゃないか!」という台詞じゃないですが、クライマックスに大量のマタンゴたちが登場するシーンで、しっかりとキノコ化の進行度合いの違う数パターンのキノコ人間が登場するなど、細かな設定も好感が持てます。
ネタバレ気味になりますが、ラストの村井と明子(八代美紀)がキノコ人間たちに襲撃されるシーンから、村井の救出後の精神病院(?)でのモノローグ、そしてエンドマークまでの一連の流れにはかなりの衝撃を受けました。しかし、あれ、ラスト、結局どういうことなんですかね。口にしなくても胞子とかでも感染する……とかなのかな。それとも結局食べてしまったのか……