今日こんな映画観た

日本未公開・未ソフト化の超マイナー映画から、誰もが知っている超大作まで、映画についての鑑賞メモ。
基本的にストーリーは結末まで記しているため、ご注意ください。

Genre:Fantasy

ルイス・ブニュエル(1928)『アンダルシアの犬』

UN CHIEN ANDALOU
製作国:フランス
上映時間:17分
監督:ルイス・ブニュエル
出演:シモーヌ・マルイユ/ピエール・バチェフ

ルイス・ブニュエルの初めての監督作品にして、あのサルバドール・ダリが参画したことでも知られる短編映画。ダリのクレジットは脚本となっていますが、本作には筋はあってないようなものなので、不思議な映像世界をダリとブニュエルの二人で作り上げた、ということなのでしょう。

 今みても感嘆する他にないシュールレアリズムの映像詩。L・ブニュエルの凄い所はこのイマジネイティヴな実験精神を失わず、メキシコ時代の通俗作品、後期の“アンチ”カトリシズムの不条理劇と、果敢な映画的創造を貫いたことだ。ダリが共同脚本を手がけた本作は全く論理的脈略はなく、あまりにも有名な、眼球を剃刀で真二つにされる女、路上に切り落とされた手首をみつめる女装の男、痙攣する掌を這い回る蟻の群れなど、夢魔的イメージが全篇を支配している。そこに何を読みとるかは観る者の自由。ただ、やがて内戦状態に突入していく20年代の終わりのスペインで作られた点は何かを教唆するだろう。

率直に言うと、訳が分からない、という感想になるでしょうか。モノクロのサイレント作品なので、色もない、音もない世界で、まるで悪夢的な映像が脈絡なく流されます。切り裂かれる眼球、手のひらを這い回る蟻、千切れた手首を突き回す女性、車に跳ねられる女性……。

もちろん当時はCGなどありません。直接的なグロテスクさは、今の映画とは比べものになりません。しかし、あまりに映像に脈絡がないためか、見ているとだんだん不安定な気持ちになってくるような映画でした。

子牛の目を使ったと言われる、有名な眼球切り裂きシーンだけでも一見の価値があると言えるでしょう。

シン・サンオク(1985)『プルガサリ 伝説の大怪獣』

PULGASARI
製作国:北朝鮮
上映時間:95分
監督:シン・サンオク(サイモン・シーン)
出演:チャン・ソニ/ハム・ギソプ/リ・イングォン

韓国から拉致され(当時は自発的に亡命と報道された)、後にアメリカに亡命したシン・サンオク(申相玉)が監督を務めていたり、日本からも中野昭慶を始めとする東宝の特撮チームが撮影に協力していたりと、いろいろと話題になった本作を見てみました

 1985年に製作されながら諸般の事情で公開が見送られ、幻の作品として語り継がれてきた北朝鮮発の怪獣映画。朝鮮半島に古くから伝わる民話をベースに、怪獣プルガサリの活躍を描く。劇中最大の見せ場となるSFXシーンを手掛けたのは、日本の『ゴジラ』シリーズの精鋭スタッフ。高麗朝末期、圧制に苦しむ民衆がついに蜂起した。老鍛冶屋のタクセは農民たちに徴収された農具を返すが、それが武器になったと投獄。拷問の末、獄死してしまう。彼の娘アミは、そんな父の形見である小さな怪獣の人形を受け取るが...。

本作製作後に、監督のシン・サンオクはアメリカに亡命しました。そのため、(正式なお蔵入り理由は公開されていませんが)本作も北朝鮮で日の目を見ることはありませんでした。シン・サンオクは亡命後、本作をリメイクしているそうです。

映画冒頭の鍛冶屋のシーン。正直俳優の演技は非常に大味です。そして、鍛冶屋のセット自体も非常にセットセットしており、映画というよりは演劇の舞台のよう。これについては、鍛冶屋のシーンだけではなく、全体的にそんな印象。ただ、クライマックスでプルガサリが宮殿を襲撃するシーンは、それなりにしっかりしたセットになっていました。

反乱を起こした農民の先頭に立つプルガサリに対し、ファン将軍(Riyonun Ri)率いる皇帝軍は火攻めや穴埋めなどの対抗策を打ち出しますが、その度にアミ(チャン・ソニ)によってプルガサリは蘇り、進軍していきます。何となく、この辺りの描写が非常にコミカル。恐らく狙ってコミカルな描写にしている訳ではないと思うのですが、どこかおかしみを感じさせる演出となっています。

また、プルガサリは鉄を食べるとどんどん巨大化していくという設定なのですが、あまりに巨大になってしまったプルガサリは人間と共演できないため、アップにしたプルガサリの着ぐるみの前で、人間が演技をするような形で撮影されています。当時としてはなかなかのSFXだったのかもしれませんが、今見るとどうしてもチープに見えてしまいます。

北朝鮮製の映画、という話題性以上には、そこまで見所はないかなぁ、という印象ですね。話の種に一度見てみるのはいいかもしれません。しかし、飢えた農民が軍備強化を推し進める朝廷に反乱を起こすってプロット、北朝鮮でよく製作することができたよなぁ……。

斎藤博(1992)『楽しいムーミン一家 ムーミン谷の彗星』

製作国:日本
上映時間:62分
監督:斎藤博
出演(声):高山みなみ/かないみか/子安武人/佐久間レイ

年末にBSで子供向けのアニメ映画がいろいろ放送されているのですが、本作はその中の一本。どうやらAmazonではDVDがプレミア価格になっているようで、見られてラッキーでした。本作は日本でもTVシリーズでお馴染みの『楽しいムーミン一家』の物語の映画化です。

ある日、ムーミン谷に住むムーミン一家の元にジャコウネズミがやって来て、「彗星がきて、この世は滅びる」と言い出す。彗星のことが気になったムーミンは、友だちのスニフ、ミーと共に「おさびし山」の天文台へと向かう。「あと4日で彗星が地球に衝突する」とのニュースを得たムーミンは、道中出会ったスナフキン、フローレンらと共にムーミン谷を目指す。フィンランドの作家、トーベ・ヤンソンの「ムーミン」シリーズをTVアニメ化した『楽しいムーミン一家』の劇場版。同名の原作小説を元に、丁寧にアニメ化している。TV版のレギュラーメンバーであるスナフキン、フローレンと、ムーミンとの初めての出会いも描かれている。

ということでムーミン映画。TVアニメの劇場版であるため、ムーミンたちを演じている声優もTVアニメと同一であり、すんなりと物語に入っていけます。彗星がムーミン谷を襲う、という物語もさることながら、本作はムーミン一家がムーミン谷に越してきた直後のエピソードであるため、ムーミン一行とスナフキン、フローレンなど、TV版レギュラーメンバーとの出会いが描かれるのも見所のひとつ。

いたずらっ子の印象が強いミーが意外としっかりしていたり、ムーミンがフローレンに会う前からフローレンにべた惚れ。会ったあとはまるで女たらしのようになっていたりと、それぞれのキャラクターの意外な(?)一面も見られて、なかなか面白い映画でした。

本多猪四郎(1963)『マタンゴ』

製作国:日本
上映時間:89分
監督:本多猪四郎
出演:久保明/八代美紀/土屋嘉男/水野久美

小学生の頃読んだ小説に、この映画を元ネタにした「マタンゴ」っていうアダ名の少女が出てくる話があって、見たことはなかったものの矢鱈と印象に残っていた映画『マタンゴ』を、今回初めて見てみました。監督と特技監督は、『ゴジラ』(1954)を初めとしてタッグを組み、数々の東宝特撮映画の名作を産み出してきた本多猪四郎と円谷英二のコンビです。

 7人の若者を乗せたヨットが、嵐のため無人島に漂着した。その島を探索した結果、彼らより先に、一艘の難破船が漂着していたことが判明する。だが乗員の姿はどこにもなく、ただあたりは奇妙な形状のキノコが群生しているのみだった。やがて食料の残りが少なくなり、彼らは恐る恐るそのキノコを食し始める。そしてそのキノコを口にした者は、人間の姿を失い、奇怪なキノコ・マタンゴへと変身していくのだった……。
 ウィリアム・ホープ・ホジスンのホラー小説「闇の声」を脚色した恐怖映画。エゴの果てにマタンゴに変身していく人間の姿を描く。水野久美の妖しい演技と驚愕のラストが必見。マタンゴのデザインは小松崎茂。

精神病院(?)に閉じ込められた村井(久保明)のモノローグ、「無事に帰ってきたのは僕一人だった……」から始まる本作は、映画開始時点でアンハッピーエンドになることは予測されています。あとは、7人のヨット乗組員たちが、極限状況でどのように人間のエゴをむき出しにし、争い、協力し、それぞれが生き抜こうとして行くのか、という人間ドラマの部分が焦点になります。

本多猪四郎監督は『ゴジラ』の成功のせいで(敢えて「せいで」と書きます)、特撮映画専門のようになってしまった面がありますが、東宝のプロデューサーである田中友幸氏が「(本多猪四郎)は僕がゴジラばかりやらせていなかったら、成瀬巳喜男のような監督になっていたかも」と語っていたという話もある(但し一次資料に当たれなかったので不確かです)ように、細やかな人間ドラマを描くことを好んだ監督だとぼくは考えています。『ゴジラ』なんかでも、ゴジラから逃げる人々の細かな描写をしっかり描いていて、映画に厚みを与えることに成功していますし。そんな本多監督にとって、本作のような特撮もありつつも、人間心理を主題にした映画は腕の振るい甲斐があったのではないでしょうか。

心理描写も見どころの一つですが、一方で特撮部分もさすが円谷英二という出来栄え。序盤のヨットのシーンも、晴天のシーンこそ、「これ、ロケする予算なかったのかなぁ」という気持ちになりますが、暴風雨に巻き込まれてからの特撮は非常に臨場感があります。そして漂流した島の難破船の造形も非常に素晴らしい。そして、何と言っても小松崎茂氏デザインのマタンゴたちの造形は本当に流石の一言。いい感じにグロテスクになっており、そして全身をなかなか映さない演出の妙と合わせて、初登場時に非常にインパクトを与えられます。また、村井の「あいつら半分キノコじゃないか!」という台詞じゃないですが、クライマックスに大量のマタンゴたちが登場するシーンで、しっかりとキノコ化の進行度合いの違う数パターンのキノコ人間が登場するなど、細かな設定も好感が持てます。

ネタバレ気味になりますが、ラストの村井と明子(八代美紀)がキノコ人間たちに襲撃されるシーンから、村井の救出後の精神病院(?)でのモノローグ、そしてエンドマークまでの一連の流れにはかなりの衝撃を受けました。しかし、あれ、ラスト、結局どういうことなんですかね。口にしなくても胞子とかでも感染する……とかなのかな。それとも結局食べてしまったのか……

劉觀偉(1985)『霊幻道士』

疆屍先生/MR. VAMPIRE
製作国:香港
上映時間:97分
監督:劉觀偉
出演:林正英/銭小豪/許冠英/李賽鳳/王小鳳

洪金寶が『妖術秘伝・鬼打鬼』(1981)などのヒットを受け、『妖術秘伝・鬼打鬼』では小道具程度の扱いだったキョンシーをメインに据えて製作したのが本作『霊幻道士』です。香港をはじめ、日本、台湾で大ヒットとなり、今ではキョンシー映画の元祖的な位置に据えられている作品です。ちなみに台湾公開時のタイトルは『暫時停止呼吸(息を暫く止めて)』。監督は劉觀偉に任せ、洪金寶は制作総指揮という形で本作に携わっています。

悪霊に乗り移られた死体、キョンシーをめぐって展開するホラー・コメディ。ある富豪から頼まれ、その一族の墓を暴いた道士が、誤って死体をキョンシーにしてしまう。道士は弟子とともに、キョンシーの封じ込めに悪戦苦闘するが……。この後、延々と作られるシリーズ&亜流品の中にあって、やはりオリジナルの力か、燦然と輝くのがこの第1作。コメディとホラーの要素だけでなく、女幽霊の幽玄とした美しさなど雰囲気醸造にも長けている。

レンタルビデオ店などではホラーコーナーに置かれることも多い本作ですが、ホラー的な要素は非常に薄く、アクション・コメディに分類してしまっていいでしょう。非常に優秀だけれど、どこか愛嬌もある道士・九叔(林正英)、少し抜けたところもあるけれど、ハンサムで武術の心得もある弟子・秋生(銭小豪)、そして愛嬌はあるがドジでマヌケな弟子・文才(許冠英)という、非常にキャラの立った3人によって生み出される面白さはかなりのもの。序盤から飛ばしてくれます。

また、序盤の九叔、文才、そして大店の令嬢・任婷婷(李賽鳳)、彼女の従兄弟で保安隊長の阿威(樓南光)が繰り広げる抱腹絶倒のコメディ、中盤の秋生と女幽霊・董小玉(王小鳳)との『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』(1987)を思わせるような悲恋、そしてクライマックス、元華演じるキョンシーと九叔・秋生の繰り広げる道術アクションシーンと、見所が盛りだくさんで飽きさせません。

最後に出演者について。主演の林正英は、これが当たり役となり、本作以降も道士役が続きます。許冠英は「Mr.BOO!」シリーズで有名なホイ三兄弟(実際は四兄弟+妹ですが)のひとり。三人の中では比較的地味な印象がありますが、名バイプレーヤーとして数々の映画に出演しています。『妖術秘伝・鬼打鬼』などの所謂「サモ・ハン・ホラー三部作」に出演したり監督を務めたりしていた午馬が米屋の主人役で顔を出しているのも、マニアックな見どころの一つですね。

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