今日こんな映画観た

日本未公開・未ソフト化の超マイナー映画から、誰もが知っている超大作まで、映画についての鑑賞メモ。
基本的にストーリーは結末まで記しているため、ご注意ください。

D:Pema_Tseden

ペマ・ツェテン(2011)『オールド・ドッグ』

ཁྱི་རྒན།/老狗
製作国:中国
上映時間:81分
監督:ペマ・ツェテン
出演:ロチ/ドルマキャプ/タムディンツォ

今のところは第12回東京フィルメックス映画祭で最優秀作品賞を受賞した本作がペマ・ツェテン監督の最新作です。『ティメー・クンデンを探して』(2009)にもほんの少し出演していたドルマキャプが、本作では準主演的役どころを演じています。

あるチベット族の男(ドルマキャプ)が町にマスチフ犬を売りに来ます。1990年代から中国人富裕層にマスチフ犬をペットとして飼う習慣が広まりはじめ、チベット高原のマスチフ犬は高値で取引されるようになっていたのでした。翌日、息子から犬を売ったと聞いた老人(ロチ)は、金を持って仲買人のところに出向き、犬を買い戻して来るのでした。そのうちどうせ犬泥棒に盗まれてしまうのだから、今のうちに売ってしまったほうがいい、という息子や仲買人の声にも「犬は牧人の宝だ」と言って耳を貸さない老人。しかし、ついには彼の周りに犬泥棒まで出没しはじめ、一時も心の休まるときがありません。そして、ついに老人はある決断を下すのでした……というお話。

静かなるマニ石』(2005)で描かれた村に比べると、本作で描かれている老人の住む家は、割合都会に近いところにあり、町には漢族も住んでいます(本作では漢族は漢語で喋るのですが、ものすごく訛がきつかった)。当然、漢族に代表される経済的価値観(拝金主義とも言う)は、老人の周りにも入り込んで来ており、若い世代のチベット族もその影響下にあります。そんな環境で生きる老人の孤独な闘いと絶望が本作では描かれています。

本作は他の2作と比べると画質も非常にざらざらしており、始めはフィルムとHDCAMの違いかとも思ったのですが、『静かなるマニ石』は確かにフィルムで撮られていますが、『ティメー・クンデンを探して』(2009)は本作同様HDCAMで撮られているようなので、上映時のメディアの問題でなければ、そういった現実に直面して揺れるチベット族の文化・習慣を、画質によっても表現しているのかもしれません。

本作で印象的だったのは煙草の使い方とテレビの使い方。若い世代のチベット族の青年たちは紙巻きタバコを吸うのですが、老人は常にパイプを手放さず、若者たちから紙巻きタバコを勧められても頑なに断り続けます。そんな彼が、息子にパイプを貸すシーンがあるのですが、不完全ながらも、父と子の絆を示しているようで、わずかに救いが感じられました。一方のテレビ。老人の家にあるテレビは常に大音量で漢語の番組を流し続けています。これが何を象徴しているのかは、言うまでもないでしょう。

ペマ・ツェテン(2009)『ティメー・クンデンを探して』

འཚོལ།/尋找智美更登
製作国:中国
上映時間:112分
監督:ペマ・ツェテン
出演:マンラキャプ/ツォンディ/ルムツォ/リクデン・ジャンツォ

ペマ・ツェテン監督が『静かなるマニ石』(2005)に続いて撮ったのが、『静かなるマニ石』の劇中でも登場した伝統劇「ティメー・クンデン」を映画化するためのキャストを探しまわる映画監督を描いた、いわば「映画の映画」とも言える本作です。

映画監督(マンラキャプ)、社長と呼ばれる男(ツォンディ)などの一行は、チベット高原に車を走らせながら、チベットの伝統劇「ティメー・クンデン」をモチーフにした次回作に出演させる役者を捜していました。村々や寺の田舎劇団を巡る一行は、ある村でティメー・クンデン王子の王妃役にぴったりの少女(ルムツォ)を見つけます。出演を承諾した彼女でしたが、条件として、昔の恋人であり、町へ行ってしまったその劇団のティメー・クンデン役の青年(カトゥプ・タシ)を王子役にキャスティングすることを挙げるのでした。

さらに村々を回りながら、ひとまず青年を捜すことにした一行に、少女も同行することを申し出ます。旅のつれづれに、社長の初恋話を挟みながら、車は青年の町に向けて寄り道をしながらゆっくりと進んで行くのでした。というお話。

本作は「映画の映画」であると同時にロードムービーでもあります。ロケ地である青海省の田舎をヤクや羊を掻き分けながら車が走っていく風景は長閑。一方で、チベット伝統劇が少し大きな町になると子供たちに伝えられていなかったりとか、町に出ていってしまう若者だとか、そういった今日日的な問題もさりげなく描かれています。

本作はティメー・クンデンという無償の愛を描いた古典劇のストーリーをベースに、その上に社長の過去の愛の話と、田舎役者の青年と少女の恋の物語という、時制の異なる物語が重なっているという重層的な構造になっています。それぞれが上手く調和しているか、というと少々首を傾げざるを得ない部分も感じられましたが、演出意図は面白く、また、前作に引き続いて「多くを語りすぎない」スタイルとはうまく調和して、不思議な読後感を残す映画になっていました。

ペマ・ツェテン(2005)『静かなるマニ石』

ལྷིང་འཇགས་ཀྱི་མ་ཎི་རྡོ་འབུམ།/靜靜的嘛呢石
製作国:中国
上映時間:102分
監督:ペマ・ツェテン
出演:ロブザン・テンペル/チョクセ/トゥルク・ジャホンツァン/プルワ

東外大AA研の主催で映画美学校試写室において開催されたペマ・ツェテン映画祭に参加して3作品を観てきました。映画祭告知によると、ペマ・ツェテン監督は西北民族学院在学中に小説家としてデビューし、その後北京電影学院に入学、中国で初めて「チベット語劇映画」を本格的に制作した監督として知られているようです。個人的にもチベット・ビルマ語派には深い関心があることもあり、見逃せない映画祭ということで楽しみにしていました。

やっと電気の引かれたチベットのアムド地方(青海省)の山村。ラマとして師(チョクセ)に付いて修行する少年僧(ロブザン・テンペル)のところに、新年を村で過ごさせるため、父(プルワ)が迎えに来ます。帰り道で父から「新しくテレビを買った」と聞いた少年僧は大喜び。兄(トゥプ・タシ)が主役を務める新年の伝統劇「ティメー・クンデン」そっちのけで、テレビと「西遊記」のVCDに夢中になります。三蔵法師を敬愛する師にも「西遊記」を見せてあげたいと思った少年僧は、父に頼みこんで、テレビとVCDデッキを馬に乗せ、父とともに寺院に戻るのでした。というお話です。

本作はペマ・ツェテン監督の初の長編劇映画なのですが、チベットの山村のお正月の風景を、控えめな演出で瑞々しくとらえています。主演のロブザン・テンペルは当時本当に少年僧であり、師を演じているチョクセも本当に彼の師、映画内に登場する化身ラマであるトゥルク・ジャホンツァンも本当の化身ラマ……といった感じで、基本的にプロの役者を使っておらず、そのせいもあってドキュメンタリー的な印象も強く受ける映画です(もちろん、明確な脚本を元に演じられているので「劇映画」なのは間違いないのですが)。

本人たちにとっては当たり前の日常が、他の土地の人(いわゆる都会人、異文化の人間)の目から見ると、それだけで物語として成立している、というそういうタイプの作品です。タイトルの「マニ石」というのは、チベット文化圏でよく見かける、石に仏教の真言を彫りつけた宗教的なもので、本作では寺院から村への行き帰りに、マニ石彫りの老人(ホワルジン)との再会と彼の死、という非常に印象深いエピソードが描かれています。

記事検索
カテゴリ別アーカイブ
【PR】
このサイト経由でDVDを買ったりするとポイントが貯められる。
日々の生活にhappyをプラスする|ハピタス
タグクラウド
月別アーカイブ
プロフィール

todaysmovie

  • ライブドアブログ