L'uomo, l'orgoglio, la vendetta
製作国:イタリア
上映時間:97分
監督:ルイジ・バッツォーニ
出演:フランコ・ネロ/ティナ・オーモン/クラウス・キンスキー/アルベルト・デッラアクア/グイド・ロロブリジーダ
フランスの作家プロスペル・メリメの小説「カルメン」をマカロニウエスタンに翻案した映画……とよく紹介されるのですが、マカロニウエスタンなのかどうか、非常に意見の分かれる映画です。詳しくは後述。監督のルイジ・バッツォーニは本作のほかに、ジャック・パランス主演の『明日なき夕陽』(1974)という遅れてきたマカロニウエスタンを監督しているほか、日本公開作としては、本作同様フランコ・ネロを主演に据えた『新・殺しのテクニック/次はお前だ!』(1970)でもメガホンを取っています。フランク・ネロとクラウス・キンスキーに関しては、このブログをご覧の皆さまには説明不要ですよね?
『カルメン』を下敷きに、舞台もメキシコに設定されて製作された異色マカロニ・ウェスタン。町にふらりとやってきた非情のガンマン、ホセ。彼は、多情で奔放なジプシーの女、カルメンに惚れ込む。だが、カルメンはホセをいいように振りまわす。彼女が自分になびかないことを知ったホセは、逆上して彼女を殺してしまうのだった……。クレジットに「メリメ原作の『カルメン』を自由に脚色した」とうたっていることからも、マカロニの形をしたメロドラマとなっている。
さて、まず上で書いた本作がマカロニウエスタンなのかどうか、という話。Allcinemaでは『カルメン』を下敷きに、舞台もメキシコに設定されて製作された異色マカロニ・ウェスタン。
とあります。また、アネックから発売されたDVDのパッケージにも『カルメン』をマカロニウエスタンに脚色した異色作
とあります。一方で、Spaghetti Western DatabaseにはTHIS FILS IS NOT A WESTERN, IT IS LISTED BECAUSE IT IS BEING SOLD AS A WESTERN IN COUNTRIES LIKE GERMANY
(この映画は西部劇ではないが、ドイツのような国では西部劇として売り出されたので、リストアップされている)とあります。
上の3つの引用の中で、まず間違いなく正しいのはSpaghetti Western Databaseの説明で、確実に間違いなのはAllcinemaの説明です。映画を見ればわかりますが、本作は(少なくともイタリア語版では)部隊を原作同様スペインの都市セビリアを舞台にしています。メキシコではありません。劇中でも、ホセ(フランク・ネロ)が度々新大陸に逃れたいという願望を語っているため、これがメキシコが舞台だとすると、訳が分からないことになります。
また、Allcinemaについて言えば、上の解説はほとんどデタラメです。町にふらりとやってきた非情のガンマン、ホセ。
とか書いてありますが、ホセは原作同様、タバコ工場の警備を担当する軍人です。また、後半の書きっぷりも、確かにストーリーはそうなんですが、ちょっと雑な感じもします。この解説書いた人、映画どころか資料も見てないんじゃないかな……。なんだ非情のガンマンって。
話を戻して。一方、マカロニウエスタンかそうでないか、という話になると、ややこしい話になります。西部劇じゃなければマカロニウエスタンじゃないじゃないか、と言われれば、一見確かにそうなのですが、本作も前半はセビリア市街(おそらく、ロケ地は違う街だと思いますが)が舞台ではあるものの、中盤以降はマカロニウエスタンでもお馴染みの、アンダルシアの荒野が舞台(マカロニウエスタンは多く、スペイン西部のタベルナス砂漠で撮影されています)ですし、馬車強盗というお馴染みのモチーフも登場します。また、舞台がアメリカ西部じゃない、という話にしても、一般的にソビエトウエスタンと呼ばれる作品は、ソ連東部が舞台だったりするので、まぁ、その辺はマカロニウエスタンをどう定義するのか、という話になってきますね。
映画のほうに目を向けると、フランク・ネロ、脱獄してきたカルメン(ティナ・オーモン)の夫ガルシアにクラウス・キンスキー。また、チョイ役ながらホセ転落のきっかけとなる上官役でフランコ・レッセルなど、マカロニウエスタンでお馴染みの面々が随所に顔を出しています。ダンカイロ役のグイド・ロロブリジーダもリー・バートン名義で多くのマカロニウエスタンに登場しています。
ストーリーは、実はほぼ「カルメン」を踏襲しており、原作を大きく逸脱している部分は、中盤、軍隊を脱走したホセがカルメン一味と組んで馬車強盗に手を染めるシーンぐらい。そして、このシーンがなければ本作は間違いなくマカロニウエスタンではないので、このシーンがマカロニ的には非常に重要な独自性と言えます。その他は、もともと原作がかなり面白いため、それを手堅く演出しているという印象。特徴としては、太陽のショットや逆光をなかなか効果的に使っている感じがします。
一応舞台がスペインというのを意識してか、ネロを始めとする登場人物のファッションがいわゆるマカロニウエスタンとは少々異なっていたり、スペイン南部に多く残っているアラブ風の城塞(アルカサル)を写したショットがあったり、闘牛場が出てきたり(これは原作にもありますし、また、闘牛場はなぜか南米が舞台のはずの『豹/ジャガー』(1968)でも出てきますが)しています。