La grande séduction
製作国:カナダ
上映時間:110分
監督:ジャン=フランソワ・プリオ
出演:レイモン・ブシャール/デヴィッド・ブータン/ブノワ・ブリエール/ピエール・コラン/リュシー・ロリエ
日本ではあまり馴染みのないカナダの映画。カナダの映画ですが、全編フランス語です。ケベックの映画なんでしょうね。監督のジャン=フランソワ・プリオは日本で公開された作品は劇場映画デビュー作の本作のみですが、本作をふくめ、現在までに3作の映画を作っているようです。
カナダの小さな島を舞台に、島にやってきた青年医師と島の人々とのユーモラスな交流を描いたハートフル・コメディ。工場誘致の条件である医者を島に留まらせるため、島ぐるみで大芝居を打つさまを、切実な社会問題を盛り込みつつほのぼのとしたタッチで綴る。監督はこれまで数々のCMを手掛け、本作で劇場長編デビューのジャン=フランソワ・プリオ。
カナダ、ケベック州のサントマリ・ラモデルヌ島。人口125人のこの島は、かつて漁業で栄えていたが、今では島民のほとんどが失業手当に頼る生活を余儀なくされていた。そんなある日、この島に大規模なプラスチック工場誘致の話が舞い込んでくる。建設には、“島に定住する医師がいること”が絶対条件。しかし、この島は長らく無医島になっていた。そこで、折良く島に1ヵ月滞在だけすることになった青年医師クリストファーがそのまま定住したくなるよう、島民が一致団結してクリストファーをダマそうとういうことに。そして、そんな島民の魂胆などまるで知らないクリストファーがいよいよ島へとやって来るのだが…。
日本にいると、なかなかカナダの情報って、積極的に集めていないと入ってきません。まず、カナダにフランス語映画のマーケットがあって、フランス語でしっかりした映画を作り、それを公開するという仕組みがある、というのが驚きでした。いま、調べてみたところ、ケベック州には700万人以上の住民がいるらしく、それだけいればそれなりのマーケットもあるよな、という新たな発見をしました。
本作は寂れかけた島の漁村が、工場誘致という一発逆転を目指し、一致団結してがんばる、という、どことなく『ブラス!』(1996)なんかを連想させる部分のある映画です。やってきた医師に気に入ってもらえるよう、必死に嘘に嘘を重ねる、というのは、よく考えると目的も行為も純粋とは言えない気もしますが、そういった完全に善人とは言えない登場人物がドタバタする様は少々三谷幸喜的とも言えるかもしれません。
医師のクリストファー(デヴィッド・ブータン)が33歳と若め、また島の郵便局に勤めているイヴ(リュシー・ロリエ)も若い設定ですが、主人公の新町長ジェルマン(レイモン・ブシャール)をはじめ、その他の主要登場人物は無精髭のうらぶれたおっさんばかり。そんなおっさんたちが必死に走り回ったり、演説したり、喧嘩したりしながら、一生懸命動き回る姿は本当にほのぼのと微笑ましい。
クリストファーがクリケット狂だと知れば、島全員でにわかクリケットチームを作ってみたり、電話を盗聴までして、ストロガノフが食べたいと聞けばレストランのメニューにストロガノフを追加してみたり。また、一方で、工場を建設する企業の社長の視察に対応するために、島民の数を必死に多く見せようと、島民総出で夜の島を走り回ったり。
しかし、友人の嘘を知りショックを受けているクリストファーの姿を見て、改めて自分のやっていることを見つめたジェルマンは思い悩むことになります。どういう結末にするのかとハラハラしながら見ていましたが、しっかりとしたけじめもありつつ、暖かな余韻の残る終わり方で、非常に幸せな映画でした。
原題の"La grande séduction"は、直訳すると「大いなる誘惑」となります。「休暇」はla vacationですが、なかなかうまい邦題だと思います。