今日こんな映画観た

日本未公開・未ソフト化の超マイナー映画から、誰もが知っている超大作まで、映画についての鑑賞メモ。
基本的にストーリーは結末まで記しているため、ご注意ください。

製作国:ロシア(ソビエト)

ロマン・カチャーノフ(1969)『チェブラーシカ』

ЧЕБУРАШКА
製作国:ロシア
上映時間:73分
監督:ロマン・カチャーノフ
出演(声):クララ・リュミャーノヴァ/ワシーリ・リワノフ

allcinema onlineでは1969年製作、製作国ロシアとなっていたので、上では一応それに合わせた表記にしてあります。実際は1969年「こんにちはチェブラーシカ」(Крокодил Гена)、1971年「ピオネールに入りたい」(Чебурашка)、1974年「チェブラーシカと怪盗おばあさん」(Шапокляк)、1983年「チェブラーシカ学校へ行く」(Чебурашка идёт в школу)の4本の短編を日本でまとめて劇場で公開したものとなっています。そしてもちろん、ロシアではなく、ソビエト時代の作品です。

 ロシアの児童文学作家エドゥアルド・ウスペンスキーの原作をロマン・カチャーノフ監督が映画化した人形アニメーション。かわいい容姿の架空の動物チェブラーシカが繰り広げるほのぼのした日常を描いたハートフルでキッチュなキャラクター・アニメ。1969年から1983年にかけて短編4本が製作された。日本でも2001年7月にそのうちの3本が劇場公開され人気を博した。2008年7月には三鷹の森ジブリ美術館配給により、デジタルリマスター、全四話完全版の劇場公開も実現。

本作との出会いは大学のロシア語の授業でした。当時の先生が授業の中で「こんにちはチェブラーシカ」「ピオネールに入りたい」「チェブラーシカと怪盗おばあさん」の3話を見せてくれたのがチェブラーシカを知った初めの機会でした。可愛らしいキャラクターと、妙に寂しげな雰囲気が印象に残っていました。

今回再見してみても、やはりチェブラーシカとゲーナの可愛らしいキャラクターは健在。そして決して子供向けではない(特に「チェブラーシカと怪盗おばあさん」はストーリーが少々ブラック)ストーリーには感心させられました。

また、ゲーナがアコーディオンを弾きながら歌う曲も哀愁がただよっていて、非常に印象に残ります。第1話のロシア語版タイトルからも分かるように、もともとの主人公はワニのゲーナだったようです。しかし、(特に日本では)そのかわいらしさからチェブラーシカのほうが圧倒的な人気を博しているようですね。

久々に観て気付いたのは、本作のロシア語の聞き取りやすさ。そこまで単語も難しくないですし、チェブラーシカとゲーナの発音もゆっくりはっきりしているため、かなり聞き取りやすく、ロシア語を勉強している方にもおすすです。

アンドレイ・ズビャギンツェフ(2003)『父、帰る』

ВОЗВРАЩЕНИЕ
製作国:ロシア
上映時間:111分
監督:アンドレイ・ズビャギンツェフ
出演:ウラジーミル・ガーリン/イワン・ドブロヌラヴォフ/コンスタンチン・ラヴロネンコ

父子の関係を描いた映画というと、ジョゼ・ジョヴァンニ監督の『父よ』(2001)が真っ先に思い浮かびます。本作もそういった類型の作品かと思って見はじめたのですが、どうやらひと味違ったようです。監督のアンドレイ・ズビャギンツェフは日本で紹介された作品は本作のみ。長編監督作としては他に2本存在しているようです。原題のヴァズラシェニエは「帰還」という意味になります。

 2003年のヴェネチア国際映画祭で絶賛され最高賞の金獅子賞と新人監督賞をダブル受賞する快挙を果たしたアンドレイ・ズビャギンツェフ監督による静謐で衝撃的な人間ドラマ。12年ぶりに突然帰郷してきた父親を前に、事情も呑み込めず戸惑うばかりの兄弟の姿を、謎を秘めた緊張感溢れる語り口で綴り、親子の間の絆や葛藤を鮮やかに描き出す。なお、本作撮影終了後、ロケ地だった湖で兄アンドレイ役のウラジーミル・ガーリンが不慮の事故で溺死する不幸な出来事があった。
 ロシアの片田舎。2人の兄弟、アンドレイとイワンは母とつつましくも幸せに暮らしていた。父親は12年前に家を出て行ったきり音信不通。兄弟は写真でしか父の顔を知らなかった。そんなある夏の日、父が突然家に帰ってきた。寡黙な父はこれまでのことを何も語ろうとはせず、母も事情を説明しようとはしない。兄弟の戸惑いをよそに、翌朝父は彼らを小旅行に連れ出す。道中、父は子どもたちに対し高圧的に振る舞う。そんな理不尽な接し方にも、父を慕い続ける兄に対し、弟のほうは徐々に反抗心を募らせていくのだった…。

12年前に出て行ったきりということは、兄のアンドレイ(ウラジーミル・ガーリン)の方は父の記憶が朧気ながらあるのかもしれませんが、弟のイワン(イワン・ドブロヌラヴォフ)には父の記憶はまったくないのでしょう。その辺りも彼らの父へ接っする態度の違いの原因のひとつである気がします。あと、イワンの年齢的な問題もあるのでしょう。子供から青年に脱皮する微妙な年齢。しかし、イワンを演じるイワン・ドブロヌラヴォフが凄い。彼が父(コンスタンチン・ラヴロネンコ)に向ける険しい視線にはぞっとさせられるものすらあります。ポスターやDVDのジャケットにもなっているあの視線です。

映画は非常に寡黙。正直な話、説明不足との印象すら受けます。父はなぜ兄弟を無人島に連れて行ったのか。父が無人島で掘り返したものは何だったのか。そもそも12年間も何をしていたのか……などなど。そして映画は意外な展開を迎え、頑固な父とそれと同じくらい(あるいはそれ以上に)頑固だった子の和解(?)を演出するわけなのですが……。これを和解と呼んでいいのか、非常に悩むところ。少々消化しづらい映画です。

映像は非常に美しい。午前中の抜けるような青空、午後の豪雨、寒々とした防波堤の風景。ローアングルや俯瞰のアングルを多用して非常に美しい映像が展開されます。そういった意味では、台詞よりも映像で語る映画だと言えるでしょう。

ラリーサ・シェピチコ(1976)『処刑の丘』

ВОСХОЖДЕНИЕ
製作国:ソ連
上映時間:110分
監督:ラリーサ・シェピチコ
出演:ボリス・プロトニコフ/ウラジーミル・ゴスチューヒン/アナトリー・ソロニーツィン

ラリーサ・シェピチコは、ソビエトでは最も偉大な女流監督とも言われる監督なのですが、現在でもロシア以外ではあまり知名度が高いとは言えません。何故なら、彼女はソビエトが対外的にあまり開放的ではなかった時代に作品を作り、そして、不幸なことに1979年に41歳という若さで交通事故により亡くなってしまったためです。

そのため、ソビエトの映画が外国に紹介されるようになった後も、なかなか紹介される機会がありませんでした。しかし、近年では欧米ではDVDが発売されるなど、少しずつ再評価の兆しも見えている様子。残念ながら日本ではソフトの発売はされていませんが、日本でも再評価が待たれる監督です。

本作は第二次大戦の独ソ戦線を舞台に、極限状況での人間の信念について問いかける映画となっています。

舞台は極寒のベラルーシ。ソビエトのパルチザン部隊に所属するリューバク(ウラジーミル・ゴスチューヒン)とソトニコフ(ボリス・プロトニコフ)の二人は、部隊の食料を調達するため、雪の中を遠く離れた牧場に向かいます。そこは既にドイツによって占領されている地帯でした。

寡黙なソトニコフは寒さで病気に罹ってしまいますが、行動的なリューバクに助けられ、何とか村にたどり着くことに成功します。しかし、彼らはそこでドイツ兵に見つかり、彼らを匿った村人たちと共に捕えられてしまうのでした。

彼らを待っていたのはドイツの手先となった裏切り者、ポルトノフ(アナトリー・ソロニーツィン)による尋問でしが。信念を持ち、ソビエトの兵士らしく死のうとするソトニコフと、一時的にドイツに屈することになっても、恥を忍んで生き延び、いつか復讐するチャンスを窺うべきだと主張するリューバク。そして、彼らふたりと村人たちの処刑の日は、翌日の朝に迫っていたのでした……というお話。

前半、リューバクとソトニコフは真っ白な雪の積もるベラルーシの雪原を、黒いコートを纏ってさまよい歩くのですが、モノクロの映像に雪の白さが映えてとても美しい。そして、この前半ではリューバクは行動派の熱血漢として、ソトニコフは線の細い寡黙な人物として観客の前に姿を表します。

後半は一転して薄暗い牢屋の中が主な舞台となります。そこで観客の前に現れるのは、信念を貫く人物としてのソトニコフと、あくまで生に執着する人物としてのリューバクです。こう書くとソトニコフのほうが立派な人物のように見えるかもしれませんが、もともと彼が咳をしてしまったのが原因でドイツ兵に見つかってしまったわけですし、一緒に捕らえられた村人たちも彼の信念に巻き込まれてゆくわけで、なかなか簡単に評価するのが難しいところ。そう言った点にも、シェピチコ監督の問題提起が見られるように感じられました。

音楽はほとんどなく、それが映画に荘厳な雰囲気を添えています。また、クライマックスに近づくに従い映画は少しずつソトニコフの神性を強調するような描写が混じりはじめます。だんだんと観客にはソトニコフとイエス・キリストが二重写しに見えるようになり、「処刑の丘」がゴルゴダに見えてくるのです。クライマックスでリューバクが老婆から「ユダ」と捨て台詞を吐かれるのも、その証左と言えるでしょう。

しかし、本作はそのキリストを讃えるわけではなく、ユダのほうの苦しみも深く描写しています。キリストを見殺しにすることになったユダの苦悩を見ていると、果たしてどちらの生き方がより人間らしいのか、考えさせられます。

テンギズ・アブラゼ(1984)『懺悔』

MONANIEBA
製作国:ソビエト
上映時間:153分
監督:テンギズ・アブラゼ
出演:アフタンディル・マハラゼ/ゼイナブ・ボツヴァゼ/エディシェル・ギオルゴビアニ

※旧サイトでの文章のため、体裁が少々異なります。

 旧ソビエト連邦時代のグルジア共和国で1984年に製作された作品。いまだ一党独裁体制が続いていた時代に、ソ連の過去の悲劇を真正面から扱い、スターリン批判ともとれるストーリーを展開した問題作ながら、その後に誕生したゴルバチョフ政権が進めるペレストロイカ(改革)、グラスノスチ(情報公開)の象徴的存在ともなり、ソ連国内で大ヒットとなった。87年のカンヌ国際映画祭に出品され、みごと審査員特別グランプリを受賞。日本では2008年12月に劇場公開が実現。

テンギズ・アブラゼ監督のソビエト映画『懺悔』を視聴しました。日本初公開は2008年ですが、なんと制作年は1984年。ソビエト連邦崩壊前の作品です。日本公開時にたまたまオフィシャルサイトを見つけ、ストーリーに惹かれてぜひ見たいと思っていました。都合が合わず劇場には行けなかったのですが、今回DVDを見つけ、ついに見ることができました。

テンギズ・アブラゼ監督は当時ソビエト連邦の内側にあったグルジア(現在は独立しています)の人。この『懺悔』も明示はされないものの、舞台設定はグルジアだと思われます。グルジア文字やグルジア語が使われていますし。

ある日、有力な独裁者であったヴァルラム氏が亡くなります。盛大に葬儀が執り行われ、彼は埋葬されました。しかし、翌日になってみると彼は墓から掘り出され、何者かによって自宅まで運び込まれていました。何度埋葬しても掘り出されるヴァルラム氏。ほとほと困り果てた遺族は墓で犯人を待ち伏せします。そこに現れたひとりの老女。彼女こそ、ヴァルラム氏の墓を暴いていた犯人でした。遺族に訴えられ、裁判に臨む老女。彼女の口からはかつてヴァルラム氏が行った非情な行為が語られるのでした。

ストーリーを説明するとこんな感じ。ストーリー自体も非情に魅力的なのですが、登場人物の台詞、行動なんかも非情に魅力的。また、天秤を持つ目隠しされた女性(正義が機能していない?)や、ヴァルラムの容姿(黒シャツ=ムッソリーニ、チョビ髭=ヒトラー)などといったメタファも豊富に隠されており、2時間半の長丁場を飽きさせません。

この作品は、『祈り』、『希望の樹』につづく三部作の最終作、という位置づけだそうです。しかし、現在日本で気軽に見られるのはこの『懺悔』のみ。残り2作品のソフト化が期待されます。

アンドレイ・タルコフスキー(1974)『鏡』

ЗЕРКАЛО
製作国:ソビエト
上映時間:108分
監督:アンドレイ・タルコフスキー
出演:マルガリータ・テレホワ/オレグ・ヤンコフスキー

※旧サイトでの文章のため、体裁が少々異なります。

 A・タルコフスキーの作品は様々な映像の断片がコラージュされたようなものばかりである。この「鏡」もまたそうであり、彼の自伝的要素を持つというが、解るような解らないような……。でもその数々の映像はどれもこれもかっこ良く、戦争の記録フィルムらしきものも出てくる。物語などの存在は忘れてただひたすら映像の中で泳ぐような感覚で、なんとも美しい一本だ。

ソビエト連邦の映画監督のなかで、巨匠のひとりに数え上げられる、アンドレイ・タルコフスキー監督の『鏡』を久し振りに観ました。ぼくはタルコフスキーの映画、というか映像が大好きなのですが、この『鏡』は難解だと言われることの多いタルコフスキーの映画の中でも特に難解。というより、普通の意味での理解なんて出来ないのではないか、とすら思えます。

タルコフスキー映画の中でも、『僕の村は戦場だった』や『惑星ソラリス』なんかは、実はそこまで難解でもありません。そして、『ストーカー』以降、特に亡命前後に撮影した『サクリファイス』などは、だいぶ観念主義的ではあるものの、まったく理解できない、ということはありません。

しかしこの『鏡』は、『鏡』だけは何度観ても「理解した」という感覚に至ることはできません。なぜかというと、この映画はそもそも他の映画とは目指しているところが異なるからだと考えます。タルコフスキーの他の映画も含め、一般的な映画は物語、小説なのです。それに比べると、この『鏡』という映画は「詩」を目指しているように感じられます。それも、形式は古典的ながら内容は前衛的な詩。

なので、この映画は頭で理解しようとしてはいけないのでしょう。剥がれてくる天井、燃える納屋と雨、明滅するランプ、戦争の記録映画。そういったもろもろのシーンを、無理に物語に位置づけようとするのではなく、ワンシーンワンシーンをそのままに受け入れ、丸呑みにすることこそ、この映画の楽しみ方なんじゃないかなぁ、と考えました。

映像は文句なしに非常に美しいので、一見の価値は大いにあると思います。ただ、万人に勧められるかと言われると、そうは思いませんが……

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