製作国:日本
上映時間:84分
監督:清水宏
出演:上原謙/木暮実千代/藤田佳子/浦辺粂子
上高地の白樺林の美しい風景をバックに、『有りがたうさん』(1936)などても有名な清水宏監督が取り上げた物悲しいメロドラマです。
戦後間もないある中秋の名月の日、植物学者である大沼一彦(上原謙)は、助手でもあり、相思相愛の関係でもあるつる子(木暮実千代)と共に上高地の山小屋に滞在していました。そこに区議会議員選挙に出馬しようという大沼の妻が訪ねて来ます。苦悩する大沼の姿を見たつる子は、身を引く決意をして立ち去ってしまいます。
3年後の中秋の名月の日、既に妻を亡くしていた大沼は、娘と共に再び山小屋を訪れます。そこには芸者となったつる子も居たのでしたが、運命の悪戯か、出会うことができませんでした。そして、つる子は親切にしてくれた男と結婚してしまいます。
更に3年後、ついに大沼はつる子に再開するのでした。お互いの近況を報告し合い、後ろ髪引かれる思いで別れる二人。そしてまた3年。大沼は娘とその夫とともに、再び山小屋を訪れるのでしたが……
白黒映画で白樺林を美しく撮影した映画というと、ソビエトのアンドレイ・タルコフスキー監督の映画『僕の村は戦場だった』(1962)が思い浮かびますが、この映画の上高地の風景もとても美しい。
ストーリーは12年に渡る二人の男女のすれ違いを描いていますが、3年ごとのある1日の描写がされるのみ、そして舞台も上高地の山小屋とその付近のみ、というこじんまりとしたもので、テンポ良く進んで行きます。
12年の間に、ある者は出世し、ある者は去ってゆき、そしてある者は死んでゆく。霧深い上高地を舞台に、人生の無常さを感じさせるような映画にも仕上がっていました。
「パパ」と言う単語を聞いたことのなかったおはな婆さん(浦辺粂子)の誤解がきっかけとなる、最後のどんでん返しまで含め、ストーリーも面白く、また美しく、静かな印象が残る映画でした。