今日こんな映画観た

日本未公開・未ソフト化の超マイナー映画から、誰もが知っている超大作まで、映画についての鑑賞メモ。
基本的にストーリーは結末まで記しているため、ご注意ください。

チェコ(スロバキア)

イジー・メンツェル(1966)『厳重に監視された列車』

OSTRE SLEDOVANE VLAKY
製作国:チェコ
上映時間:93分
監督:イジー・メンツェル
出演:ヴァーツラフ・ネッカージ/ヨゼフ・ソムル/イッカ・スコフィン

近年に至るまで精力的に作品を発表しているイジー・メンツェル監督の長編デビュー作。Allcinema Onlineの解説によると、日本では2008年の特集上映で初めて公開された模様。現在ではDVDも発売されています。ぼくが観たのはずいぶん昔、恐らく8年ほどは前に衛星第二放送で放送されたものを録画しておいた版。当時、「運命を乗せた列車」というタイトルで放映されました。チェコ語の原題を機械翻訳にかけると、「Closely Watched Trains」となるので、「厳重に監視された列車」のほうが原題に忠実なタイトル。一方で、内容を考えると「運命を乗せた列車」というのも、なかなかうまい邦題だと思います。

 「つながれたヒバリ」「スイート・スイート・ビレッジ」のイジー・メンツェル監督が<プラハの春>以前の66年に撮り上げた長編デビュー作。アカデミー賞外国語映画賞を受賞。第二次大戦中のナチス・ドイツ占領下のチェコを舞台に、父の跡を継ぎ新米駅員となった青年が悲願の童貞喪失に向け奮闘するユーモラスな姿と、対照的な迫り来る戦争の影を鮮烈に描き出す。2008年12月には、メンツェル監督作「英国王 給仕人に乾杯!」の公開を記念した“メンツェル映画祭”にて劇場公開。

解説を見てみると、主人公のミロシュ(ヴァーツラフ・ネッカージ)は童貞喪失にしか興味のない、軽い青年のようにも見えますが、なかなかそうではありません。むしろ、初めて恋人とベッドを共にしようとした際、自分が早漏であることに気づいて自殺を図るほど生真面目な青年。彼の生真面目さが可笑しみを生んでいます。

ミロシュの周りを取り巻く人々もなかなか個性的。女にしか興味がないように見えながら、実際はナチスに対するパルチザン活動に参加している先輩駅員のフビチカをヨゼフ・ソムルが好演し、駅に集まる鳩と戯れるのが趣味の小人物の駅長をウラジミール・ヴァレンタが演じています。主人公の恋人を演じたイッカ・スコフィンも、純朴で可愛らしい。また、監督のイジー・メンツェルも、自殺を図ったミロシュを診察する医師として、数カット出演しています。

ストーリー自体にはそこまで奇抜なところもなく、ラストの展開も容易に予想できるもの。しかし、戦争とパルチザンそして死、という重いテーマを扱いながらも、暗くなることなく、最後までコメディとして纏め上げられているので、観終わったあとの気持ちはそこまで重くはなりません。この絶妙なさじ加減は一見の価値があります。

オルドリッチ・リプスキー(1981)『カルパテ城の謎』

THE MYSTERIOUS CASTLE IN THE CALPATHIANS
製作国:チェコスロバキア
上映時間:99分
監督:オルドリッチ・リプスキー
出演:ミハイル・ドチョロマンスキー/ヤン・ハルトゥ/ブラスティミール・ブロドスキー

さて、しばらく続いていた(といっても、2日間ですべて観ているわけですが)オルドリッチ・リプスキー監督作品特集も、この『カルパテ城の謎』で一旦おしまいとなります。日本でソフト化されている作品は、いままで観てきた4作品だけなので、これ以上観ようとするならば、海外で発売されているDVDなどを個人輸入することになります。1966年に発表された「Stastny Konec」など、なかなか面白そうな作品もあるので、機会があれば観てみたいですね。

 結婚目前に花嫁を誘拐された伯爵は、カルパチア王国へと旅に出た。旅の途中で怪我をした男を助けたことから彼の村へ行き、そこで誘拐された花嫁の手掛かりを得る。村はずれに建つ古城にもぐり込んだ伯爵と男は、そこに彼女が監禁されていることを知るのだが、城の主人である男爵と彼のもとで異端の研究に没頭するマッド・サイエンティストによって彼らもまた捕らえられてしまう……。  ヴェルヌの小説をもとにした、奇妙なコメディ。なじみの薄いチェコの映画で、真面目なのかふざけているのかよく分からない顔つきの出演者たちが繰り出すギャグは、古風でずっこけるものからシュールで唖然とさせられるものまで様々。どんな国にもアホな事を考える人が存在するという事実が証明されたようで、なんだかとても嬉しくなってしまう。エキセントリックさを狙いすぎてくどいところが散見されるものの、不可思議で独特なイメージが注目に値する。

SF小説の先駆者、ジュール・ヴェルヌの小説「カルパチアの城」を映画化した作品のようです。ぼくは原作は未読なのですが、おそらく、ここまでコミカルではないはず。基本的にはSF寄りのサスペンスなのですが、リプスキー監督お得意のコミカルな描写や、『アデラ/ニック・カーター、プラハの対決』(1977)でも見られた面白ガジェット満載の賑やかな映画です。

主人公のオペラ歌手、フェリックス・テレケ伯爵を演じるのは、『アデラ/ニック・カーター、プラハの対決』でも主演したミハイル・ドチョロマンスキー。この俳優はリプスキー映画の常連のようです。本作では、あまりの声量でガラスすら砕いてしまうという、特殊能力の持ち主を飄々と演じています。

花嫁であるサルザを助けだすためにカルパテ城に乗り込むテレケ伯爵でしたが、城には誘拐犯であるゴルツを始め、その下で働く科学者・オルファニク博士など、アクの強いキャラクターがいて、なかなか一筋縄ではいきません。基本的にはシュールなコメディなのですが、サルザに関する意外な結末など、なかなか驚かされました。まぁ、これはきっと原作どおりなんだと思いますが。

一方、コミカルな演出やドタバタはリプスキー監督の特長ですが、本作ではそれが少し裏目に出てしまった感がなきにしもあらず。主人公たち、ゴルツたち、そしてカルパテ城に向かう警官たちと、いろいろな人々を登場させているのですが、そのせいで散漫な描写になってしまった感があります。また、主人公の回想シーンも少々冗長。もう少しテンポよく物語を展開させても良かったのかな、と感じました。

このリプスキーという人は、非常に演劇的な演出を好む人なんだろうな、という印象。今まで観てきた映画でもそういう点は見られましたが、この『カルパテ城の謎』では一層顕著にその傾向が見られます。彼の映画はなんとなく懐かしさを感じさせますが、そういった点にも原因があるのかもしれません。

さて、これまで観てきたリプスキー映画。一押しを挙げるとしたら『レモネード・ジョー 或いは、ホースオペラ』(1964)でしょうか。次点には『アデラ/ニック・カーター、プラハの対決』(1977)を挙げておきます。

オルドリッチ・リプスキー(1977)『アデラ/ニック・カーター、プラハの対決』

ADELA HAD NO SUPPER YET
製作国:チェコスロバキア
上映時間:106分
監督:オルドリッチ・リプスキー
出演:ミハイル・ドチョロマンスキー/ルドルフ・フルシンスキー/ミロシュ・コペツキー

オルドリッチ・リプスキー監督作品、本日3作目は『アデラ/ニック・カーター、プラハの対決』です。日本語字幕付きで見られるリプスキー作品は早くもあと一本です。

ニック・カーターはアメリカの人気大衆小説の主人公。無敵の探偵です。ひとりの作家の作品というわけではなく、色々な作家がカーターを主人公にした冒険活劇を書いているようです。

この『アデラ/ニック・カーター、プラハの対決』は、そんなニック・カーターがプラハを舞台に謎の植物学者であり天才犯罪者である、クラツマル男爵こと「植木屋」との対決を繰り広げるコミカルなサスペンスです。

 英題は“アデラの夕食はまだ”。アデラとはすなわち食人植物のこと。そいつが人間として魔都プラハに現れ巻き起こす怪事件に、探偵ニック・カーター(今世紀初め世界中で人気があったアメリカのパルプマガジン・ヒーロー)が挑む。なぜそんな化け物が生まれたかと言えば、ある犯罪王の執念からなのだが、その辺は秘密ということにしておきましょう。とにかく、連続活劇のヒーローが主人公なんだから、スピーディかつキッチュなドタバタが繰り広げられ、カレル・ゼーマンを想起させるプリミティヴなSFXも楽しい限り。同じような、古いアメリカ映画の憧景に満ちた快作「レモネード・ジョー」を撮ったリプスキーの傑作ファンタジー。

カーターといえば、無敵の探偵でありヒーローなのですが、この作品のカーターはビールを飲みすぎてぶっ倒れたり、鋼鉄の扉で手を痛めたりとかなり三枚目。こちらもソーセージとウインナー好きの太っちょレドビナ警部といいコンビです。

また、007シリーズを思わせる数々の秘密兵器もコミカルで面白いです。クライマックスの太陽光線銃の下りなんて、最高に面白い演出でした。

リプスキー監督は、西部劇、SF、サスペンスといろいろなジャンルの映画を撮っていますが、(少なくとも日本で見られる作品については)コミカルな演出を得意としているのは間違いないようです。あと、早回しの演出が好きみたい。

グロテスクかつ美しい妖花・アデラの造形はあのヤン・シュヴァイクマイエル。彼の監督作品が好きな方も必見の映画です。

オルドリッチ・リプスキー(1969)『SF地球滅亡の危機/アインシュタイン暗殺指令』

I KILLED EINSTEIN, GENTLEMAN
製作国:チェコスロバキア
上映時間:99分
監督:オルドリッチ・リプスキー
出演:ユジイ・ソバク/イアナ・ブレイフォバ

本日二本目のオルドリッチ・リプスキー監督作品。他のソフト化された作品はすべて「チェコ怪奇骨董幻想箱 リプスキーBOX」という3枚組DVD-BOXに収められているのですが、この『SF地球滅亡の危機/アインシュタイン暗殺指令』だけはDVDが発売されておらず、VHSも廃盤になっているようです。また、Allcinema Onlineでは『SF地球滅亡の危機/アインシュタイン暗殺指令』というタイトルで登録されているようなのですが、ソフトには「アインシュタイン暗殺指令」というタイトルしか書かれておらず、前半の「SF地球滅亡の危機」というネーミングの由来はよくわかりません。

1999年、核爆弾の影響によって、女性にも髭が生えるようになってしまった。ムーア教授(ユジイ・ソバク)を始めとする3人の研究者は、原子爆弾を消滅させるため、その元凶であるアインシュタインを暗殺しようと、タイムマシンに乗って1911年のプラハに飛びます。しかし、研究者のひとり、20世紀初頭の文化を専門としていたグウェン(イアナ・ブレイフォバ)がアインシュタインと恋に落ち、彼女の邪魔によってムーアの計画は失敗してしまいます。

ムーア教授は一旦1999年に戻りますが、再度、アインシュタイン暗殺のために1911年に飛びます。今度は前回のタイムトラベルの影響で、「存在しない」ことになってしまった研究者・フランクの妻、ベッツィと共に。しかし、原爆原理主義者と協力したグウェンたちも1911年に飛び、ムーアたちの邪魔をしようとします。果たしてムーアの計画は成功するのでしょうか。そしてグウェンとアインシュタインが決断したあることとは。

といったようなストーリーです。こうやって書くとある程度真面目なサイエンスフィクションのような気もしますが(女性に髭が生えてきたっていう導入部の時点でそんなことないか)、基本的に、ひたすらしょうもないどたばたコメディです。

一応、ストーリーの辻褄は合っていますし、いろいろと張られている伏線はきれいに回収されています。また、ラストシーンも、なんとなく皆が幸せになるようなハッピーエンドで終わっており、そういった意味では肩の凝らないお気楽娯楽映画としては合格点。ただ、いろいろと説明不足な部分があり、どうしてそういうことになったのか、というのがはっきりしない点が残り、ちょっともやもやした気分にはなります。

オルドリッチ・リプスキー監督は『レモネード・ジョー 或いは、ホースオペラ』(1964)では、「この映画しかない!」といったオリジナリティ、面白さを見せてくれていましたが、それに比べるとこちらの映画は少々落ちてしまうかな、という印象を受けました。残り2作に期待ですかね。

オルドリッチ・リプスキー(1964)『レモネード・ジョー 或いは、ホースオペラ』

LIMONADOVY JOE
製作国:チェコスロバキア
上映時間:99分
監督:オルドリッチ・リプスキー
出演:カレル・フィアラ/オルガ・スホベロヴァ/Kveta Fialová

チェコスロバキア、あるいはチェコというと、日本では「プラハの春」といったような歴史的な出来事や、東欧一の芸術の都、あるいはチェコ・アニメーションに代表される可愛らしい映画。或いは極一部の人達(ぼくを含む)には言語学におけるプラーグ学派のイメージが強い国だと思います。しかし、そんなチェコでももちろん、娯楽映画はたくさん作られていました。本作を監督したオルドリッチ・リプスキーは、当時のチェコスロバキアを代表とする娯楽映画監督のひとり。その生涯で20本以上の映画を監督しています。

日本では本作のほかに『SF地球滅亡の危機/アインシュタイン暗殺指令』(1969)、『アデラ/ニック・カーター、プラハの対決』(1977)、『カルパテ城の謎 』(1981)がソフト化されています。今回、幸運にもそのすべてのソフトを入手することができたので、順次紹介していこうと思います。まずは第一作目、『レモネード・ジョー 或いは、ホースオペラ』です。

 いわゆる一つの西部の町に、主人公の清涼飲料水セールスマン、ジョーはやってくる。彼の天敵は酒。匂いを嗅ぐだけで気絶だ。酒場の主の名はバッドマン。神父はグッドマン。超分かり易い設定の中、百害あって一利無し、アルコールを一掃し、健康によいレモネードを飲もう!というわけで、素敵に強引な活躍をしてくれる我らがジョーに、酒場の歌手の竜巻ルウも、牧師の娘の清純な娘ウィニフレッドも、我々だって一目惚れ。「サボテン・ブラザース」と共に、息抜き映画の一、二位を争う傑作(たまたま同じような世界を描いてますが)。'64年という製作年度を考えれば、西部劇に対しこれほどノスタルジーを持つのが不思議に思えるが、後に「アデラ/ニック・カーター、プラハの対決」でサイレントの連続活劇の世界を蘇らせたリプスキーの興味は、今では失われたジャンル、歌うカウボーイの世界“ホース・オペラ”に向いている。セピアの画面にヨーデル声で、ジーン・オートリーやロイ・ロジャースよろしく唄いながらジョーが登場するやいなや、この、パロディ劇というよりはチェコ映画らしい、コミックと音楽とアニメ(イジィ・プルデチュカが特撮に協力している)の三位一体の手作り感覚のユーモアの虜になってしまう。

冒頭から、レモネード色に彩色された白黒フィルムが見る者の目を釘付けにします。この映画は、前編が白黒フィルムによる撮影ですが、そのフィルムにシーンに合わせていろいろな色を付けるという、面白い試みがなされています。ホースオペラというのは、いわゆる「濫造された西部劇」に対する愛称のようなものらしいです。

Allcinema Onlineの解説にも書かれていますが、『サボテン・ブラザース』に少し似たところもあります。というか、半分くらいミュージカルのような色彩もあるため、主人公たちがよく歌を歌っていたあの映画を彷彿とさせるのかも知れません。途中までは、分かりやすい勧善懲悪のストーリーの中でギャグが展開されていきますが、ラスト10分ほどのどんでん返し(といって言いのだろうか)が連続するシーンは圧巻。このラストに怒り出すか、それとも許せるかで、この映画への評価は180度変わるでしょう。ぼく? ぼくはもう大爆笑でした。

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