Targets
製作国: アメリカ
監督: ピーター・ボグダノヴィッチ
出演: ボリス・カーロフ/ティム・オケリー/アーサー・ピーターソン/ナンシー・スー

【あらすじ】

試写室ではバイロン・オーロック(ボリス・カーロフ)の新作怪奇映画「古城の亡霊」の試写が行われていた。オーロックは「古城の亡霊」の監督でもあるエド(アーサー・ピーターソン)の新作への出演を請われるが、もう引退する、と言って断る。一方、試写室近くの銃砲店では、どこにでもいるような青年、ボブ(ティム・オケリー)がライフルを購入していた。

イギリスに戻ることにしたバイロンだったが、その夜、秘書のジェニー(ナンシー・スー)に咎められたり、泥酔したエドが彼の部屋にやってきて愚痴るのを見て気を変え、リシーダのドライブイン・シアターで行われる「古城の亡霊」の舞台挨拶には出演することにする。

舞台挨拶の日の朝、ボブは妻と母を射殺、ガス会社のタンクに登り、そこから幹線道路を走る車を狙撃し始める。パトカーが駆けつけると、彼はタンクから逃走し、ドライブイン・シアターに紛れ込む。舞台挨拶に先立ち、映画の上映が始まると、ボブはスクリーンの裏から観客を一人、また一人と狙撃してゆく。

バイロンとジェニーがドライブイン・シアターに着いてしばらくすると、狙撃犯に気づいた観客たちがパニックになりながら劇場から逃げようとし始める。スタッフの通報によって警察も駆けつけ、追い詰められたボブは銃を乱射しはじめ、ジェニーも負傷してしまう。

ボブの姿を見かけたバイロンは彼に向かってゆく。スクリーンの中のバイロンと向かってくるバイロンの両方を見たボブはパニックを起こし、バイロンを撃とうとするが、間一髪、バイロンのステッキがボブの拳銃を叩き落とすのであった。「百発百中だったろ」と言い残し、ボブは警官に連行されていった。

【感想】

ピーター・ボグダノヴィッチの代表作というと『ペーパー・ムーン』(1973)あたりになるんですかね。それはともかく、今も現役の映画監督である彼の監督デビュー作が本作。日本では劇場で公開されず、長らくソフトも出ていませんでしたが、数年前にDVD化されているようです。ボグダノヴィッチはあのロジャー・コーマンに見出された一人で、本作でもノンクレジットながら、コーマンがプロデューサーとして関わっていもいる模様。

映画の冒頭、唐突に古城を舞台にした怪奇映画がはじまり、「あれ、映画間違えたかな」と思いますが、実は映画内映画の試写だった、という構成は面白い。本作で上映されている映画内映画は実際にボリス・カーロフが出演したロジャー・コーマン監督の『古城の亡霊』(1963)が使われています。

ストーリー立ては非常にシンプルですが、ティム・オケリー演じる青年ボブの人生が破綻を迎えるまでの不穏なパートと、ボリス・カーロフ演じる斜陽の映画俳優のパートの転換が非常にスムーズに行われているのには目を見張ります。

また、本作ではボリス・カーロフが自身の俳優人生そのままの役を演じているところも見どころ。そう考えると、本作中でエドが構想していた、バイロン自身を描いた新作こそが本作で、エドはピーター・ボグダノヴィッチ監督自身の分身なのかもしれません。

作中ではボブの動機は明確に描かれません。銃砲店の店主に「狩りの獲物は?」と聞かれて「豚さ」と返す場面や、ドライブイン・シアターの遊具で遊ぶ子供たちを眺める彼の表情から何となくうかがい知れるのみ。しかし、そこが逆に本作の魅力の一つであり、作られた年代ならではの空気感を伝えています。