درباره الی
製作国:イラン
上映時間:116分
監督:アスガー・ファルハディ
出演:ゴルシフテ・ファラハニ/タラネ・アリシュスティ/シャハブ・ホセイニ/ペイマン・モアディ

日本ではすでに『別離』(2011)、『ある過去の行方』(2013)と順調に新作が紹介されているアスガー・ファルハディ監督の本邦初紹介作品。監督作自体は本作の前に何本か撮っているようです。

 2009年のベルリン国際映画祭で監督賞に輝いたイラン映画。カスピ海沿岸の避暑地にバカンスにやって来たイランの中産階級の男女が、その中の一人の女性の突然の失踪をきっかけに、彼女の行方と原因を巡って混乱を来す中で、次第にさまざまな謎や問題が浮き彫りとなっていくさまを、イランならではの社会的事情を背景にミステリアスかつサスペンスフルに綴る。監督は、これが日本初登場のアスガー・ファルハディ。
 テヘランからほど近いカスピ海沿岸のリゾート地に週末旅行へとやって来たセピデーたち3組の家族。そこに、セピデーに誘われ、たった一人で参加した若い女性、エリがいた。セピデーには、エリに離婚したばかりの友人アーマドを紹介するという思惑があったのだ。しかし翌日、エリは海岸で忽然と姿を消してしまう。事故か、それとも何も言わず帰ってしまったのか。必死の捜索が進む中、唯一彼女と面識のあったセピデーさえ彼女の本名を知らず、誰もエリのことを何一つ知らなかったことが明らかとなってくるのだが…。

群像劇で、登場人物がそれぞれの思惑を持って、少しずつ嘘を付いてしまったために、本来そこまでややこしくないはずの話がどんどんこじれにこじれていく、というタイプの作品。お互い親族関係にある3家族が海辺にバカンスにやってくるのですが、そこにセピデー(ゴルシフテ・ファラハニ)に連れられて、彼女の子どもの保育園の先生をしているエリ(タラネ・アリシュスティ)も参加します。セピデーの思惑としては、ドイツに住んでいて久々に里帰りしたアーマド(シャハブ・ホセイニ)の奥さん候補として、彼女を紹介しようとしていました。

しかし、ペイマン(ペイマン・モアディ)の息子が海で溺れてしまい、皆でそれを助けたあと、エリが忽然と姿を消してしまっていることに気づきます。助けようとして溺れたのか、それとも帰ってしまったのか。登場人物が疑心暗鬼になるなか、エリを誘ったセピデーを始めとして、誰も彼女の本名(エリはイラン人の名前としては一般的ではなく、本名をもじった愛称)すら知らなかったことが判明します。

主要な登場人物がなかなか多く、さらに女性陣はヘジャブを被っているため、油断をすると誰が誰だかわからなくなりそうなところですが、性格がしっかり描き分けられており、混乱せずに見ていることができます。といっても、前半は誰と誰が夫婦なのかとか、誰が誰の子どもなのかいまいち分からないまま見ていましたが…… まぁ、それでもそこまで問題はない感じでした。

なかなかサスペンスフルな展開で、誰が本当のことを言っているのかとか、いったいエリはどうなってしまったのかとか、先が気になる展開が続き、中だるみもせずにラストまで話が展開していきます。

原題の「درباره الی」は「エリーについて」とか「エリーに関係すること」くらいの意味ですね。

allcinemaの解説では、イランならではの社会的事情、とありますが、確かに本作の重要な要素となる問題については、イランの現行法にはいろいろ不備はあるものの、イスラム法の原理に基づく国家としては、サウジアラビアなんかと比べると、女性国会議員の努力により、かなり改善(敬虔なムスリムから見ると堕落なのかもしれませんが)されてきている、ということを付言しておきます。本作のネタバレに関わるため、奥歯に物が挟まったような言い方しかできませんが。

 Kanojo ga kieta hamabe
(2009) on IMDb