西游·降魔篇
製作国:中国
上映時間:110分
監督:周星馳
出演:文章/舒淇/黄渤/羅志祥

『ミラクル7号』(2008)以来5年ぶりとなる周星馳(チャウ・シンチー)の監督作。彼は実は以前にも『チャイニーズ・オデッセイ』(1995)二部作という、西遊記を題材にした作品を作っているのですが、今回の作品とは直接の関係はなく、『チャイニーズ・オデッセイ』を見ていたほうが面白い、というシーンは(たぶん)特になかったと思うので、『少林サッカー』(2001)以来の周星馳ファンも安心して楽しめる作品です。

本作は2013年の春節に香港、台湾で、その後中国本土で公開されたのですが、日本では一向に公開されるという話が出てこず、日本未公開になっちゃうかな、と思っていたタイミングで日活の新レーベル「GOLDEN ASIA」での公開が決定して、『食神』(1996)あたりから、欠かさず劇場で観ている周星馳ファンとしては非常にありがたかったです。

 「少林サッカー」「カンフーハッスル」のチャウ・シンチー監督が“西遊記”をモチーフに描く奇想天外ファンタジー・アドベンチャー・コメディ大作。主演は「トランスポーター」「クローサー」のスー・チーと「海洋天堂」「ドラゴン・コップス -微笑(ほほえみ)捜査線-」のウェン・ジャン。
 これは、三蔵法師が孫悟空たちと天竺目指して旅に出る前のおはなし。彼がまだ玄奘という名の冴えない妖怪ハンターの若者だった頃。玄奘は川に出没する謎の妖怪(後の沙悟浄)を退治しようと悪戦苦闘中。そこへ、美人の妖怪ハンター段が現われ、妖怪を鮮やかに退治する。山奥の料理屋にやって来た玄奘は、またしても謎の妖怪(後の猪八戒)相手に苦戦しているところを、突然現われた段に救われる。しかし一度は生け捕りにしたものの、豚から巨大なイノシシに姿を変え逃げられてしまう。やがて師匠から“あの妖怪を倒せるのは、五指山のふもとに閉じ込められた孫悟空だけ”と教えられ、五指山へと向かう玄奘だったが…。

前作の『ミラクル7号』は割とマイルドな人情ものだったので、星爺(周星馳の愛称)も落ち着いてきて、こういう路線で行くのかなぁ、と思っていたのですが、そんなことはなかった。むしろ『少林サッカー』とか『カンフーハッスル』(2004)よりやりたい放題でした。感覚的には、『食神』のクライマックスのハイテンションとんでも展開が最初から最後までフルスピードで展開される感じです。

Allcinemaのあらすじを見てもわかるとおり、本作は主人公である玄奘(文章)が自らの力と役割に目覚め、孫悟空(黄渤)、沙悟浄(李尚正)、猪八戒(陳炳強)を仲間にし、天竺へと旅立つまでが描かれる作品です。妖怪ハンター、という玄奘の職業が割合のっけからぶっ飛んでいる感じがしますが、周星馳作品なので、というか、ワイヤーアクションの伝統と伝奇物語の伝統がある香港なので(どうやら本作は完全に中国作品のようですが)、そこまで突拍子もない印象はありません。というか、そこで引っかかると話が先に進まないので……。そこはあっさり受け入れましょう。

振り返ってみると、ストーリー展開自体はそこそこ王道です。が、例によってどんなシーンでもお構いなしにギャグや小ネタを挟んでくるので、それで話が長くなっているというか、そこが見どころというか。制作費は大きくなって、CG使いまくって、音声が中国語(普通話)になったりしていますが、やりたいことは結局『食神』や『喜劇王』(1999)で完成されているという印象を受けました。ベースストーリーとしては、ダメな男(でもどこか見所がある)が一旦ボロボロになって、自分の眠っていた才能を開花させる……というのが基本パターン。毎回結末は一捻りしてあったりしますが。

また、周星馳は日本の漫画ファンだったり、武侠小説ファンだったりというのが有名ですが、本作の満月を見ると孫悟空や妖怪たちがパワーアップする、というのはおそらく「ドラゴンボール」のパロディでしょう。『DRAGONBALL EVOLUTION』(2009)で全然やりたいことをやらせてもらえなかったらしいので……ここで鬱憤ばらししたのかもしれません。武侠要素としては、今回分かりやすい金庸や古龍のパロディは(たぶん)ありませんでしたが、空虛公子(羅志祥)や北斗五形拳使い(行宇)、天残足(張超理)のキャラクターは非常に金庸の武侠小説的でしたね(突然現れる、人の話を聞かない、すぐ喧嘩する、など)。武術の造形は古龍っぽいかな。

今回監督作としては初めて周星馳は出演していないのですが、文章の役どころは15年くらい前だったらおそらく周星馳自身が演じただろうな、という役どころです。演出の仕方も周星馳主演映画に近い感じなので、従来の周星馳作品ファンも楽しめる作品に仕上がっています。ただ、文章は周星馳よりも少し真面目そうというか、根っから善人そうな感じですね。

今回、主演の文章は大陸出身の俳優ですが、段小姐役の舒淇は香港の女優です。また、空虛公子を演じた羅志祥は台湾で有名なポップ歌手でもあり、中香台の映画界の交流がますます盛んになっていることが伺えます。