THE ARTIST
製作国:フランス
上映時間:101分
監督:ミシェル・アザナヴィシウス
出演:ジャン・デュジャルダン/ベレニス・ベジョ/ジェームズ・クロムウェル/ジョン・グッドマン

第84回アカデミー賞作品賞・主演男優賞などを受賞した、ハリウッドを舞台にしたフランス映画。監督のミシェル・アザナヴィシウスの作品が日本で劇場公開されるのは本作が初めて。前々作である『OSS 117 私を愛したカフェオーレ』(2006)のDVDはリリースされているようなので、こちらも見てみたいところ。

 フランスで人気のスパイ・コメディ「OSS 117」シリーズのミシェル・アザナヴィシウス監督と主演のジャン・デュジャルダンのコンビが、ハリウッド黄金期を舞台に白黒&サイレントのスタイルで描き、みごと2012年のアカデミー賞作品賞に輝いた異色のロマンティック・ストーリー。共演はベレニス・ベジョ。また、劇中で主人公のチャーミングな愛犬を演じたタレント犬アギーの名演も大きな話題となった。
 1927年、ハリウッド。サイレント映画の大スター、ジョージ・ヴァレンティンは、彼に憧れる女優の卵ペピーと出会い、自身の主演作でエキストラの役を手にした彼女に優しくアドバイスをおくる。そんな中、時代はセリフのあるトーキー映画へと大きく変わっていく。しかしジョージは、自分は芸術家だと主張してサイレント映画に固執、瞬く間にスターの座から滑り落ちることに。そんなジョージとは対照的に、時代の波に乗ってスターの階段を駆け上っていくペピーだったが…。

ヒューゴの不思議な発明』(2011)、『マリリン 7日間の恋』(2011)と、最近「映画を描いた映画」を劇場で立て続けに見ています。『ヒューゴ〜』は1910年代の映画創世記、舞台を写していただけの映画がロケ撮影やカメラの移動などの「映画らしさ」を持ち始めたころの話、『マリリン〜』はオリヴィエに象徴される古い「役者」とマリリンが象徴する「スター」の話、そして本作はサイレントがトーキーに取って代わられた1930年代のお話。2Dから3Dへの過渡期であるいま、こういった映画が制作されるのも、わかるような気がします。ただ、まぁ、こういった懐古的な映画ばかりアカデミー賞界隈で持て囃されるのもどうかとも思いますが。

とは言ったものの、本作は本当に素晴らしい。フランク・ボーゼージ監督の『第七天国』(1927)をはじめとするサイレントの古典へのオマージュを入れつつも、そういった古い映画をほとんど知らない観客でも楽しめるしっかりとした物語になっています。このあたりは『ヒューゴ〜』は少々弱かった。また、本作はフィクションながら、時代背景は現実同様であり、当時ジョージのような境遇に陥った映画俳優はそれこそ大勢いたため、ストーリーにも説得力があります。

キャラクターの不安感を表現するために画面を斜めにしたり、感情の高ぶりを表現するために急激にパンしたり、逆に途方に暮れるさまを表すのにカメラを引いたりと、今では少々古臭い表現が、サイレントには非常にマッチしているのも素晴らしい。本作はもともとカラー映画として撮影されたらしいのですが、モノクロにしたのは非常に正しい判断でした。

その他にも、階段の話とか、デュジャルダンの衣装の色合いの話など、いろいろと唸らされたところはあるのですが、その辺りを書いていると長くなるので少々割愛。トーキーの時代になって、落ち目になったサイレントのスターを、旧友が再び映画に出す、という筋書きは、チャップリンが『ライムライト』にキートンを呼んだエピソードを思い出させます。撮影された映画は『ザッツ・エンタテインメント』(1974)みたいな映画になるんでしょうかね。

ジョージの実直な運転手・クリフトンを演じたジェームズ・クロムウェルや、映画会社社長を演じたジョン・グッドマンなど、脇を固める役者も非常に安定しており、安心して見ていられます。

しかし、ペピーはジョージにとって、まさしく「守護天使」だったのだなぁ。