WAR HORSE
製作国:アメリカ
上映時間:146分
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ジェレミー・アーヴァイン/ピーター・ミュラン/エミリー・ワトソン/ニエル・アレストリュプ

スティーヴン・スピルバーグ監督の(現在のところ)監督最新作。アメリカではやはり自身が監督したアニメ『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』(2011)とほぼ同時期に公開されたらしく、器用なんだか何なんだか。恐ろしい監督です。

 巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督が第一次大戦を舞台に、軍に徴用され最前線に送られた一頭の馬とその飼い主の青年との友情と奇跡の物語を美しい映像とともに描いた感動ドラマ。マイケル・モーパーゴの同名児童文学を映画化。主演はこれがスクリーン・デビューのジェレミー・アーヴァイン、共演にエミリー・ワトソン 、デヴィッド・シューリス、 ベネディクト・カンバーバッチ。
 第一次大戦前夜のイギリス。農村の小さな牧場で一頭の仔馬が誕生する。その仔馬は貧しい農夫テッドによって競り落とされ、少年アルバートの家にやってくる。そしてジョーイと名付けられた仔馬は、アルバートの愛情を一身に受けて、賢く気高い名馬へと成長していく。しかし戦争が始まると、アルバートが知らないうちにイギリス軍へ売られてしまうジョーイ。やがて、ニコルズ大尉の馬としてフランスの前線へと送られたジョーイは、ついにドイツ軍との決戦の時を迎えたのだったが…。

まず、この映画の主人公は馬です。ドリームワークス製作で主人公が馬だというと、アニメ映画『スピリット』(2002)を連想しますが、重い機関車を沢山の馬が曳くシーンが出てきたあの映画のように、本作でも馬のジョーイが重たい大砲を曳くシーンが出てきます。しかし、あのシーン、大砲を曳いた馬はほぼ潰れるという事前情報を観客に提供しておき、士官にジョーイを呼ばせる、観客はジョーイが引っ張るのかと思ってハッとします。しかし、実は士官はジョーイではなく隣の親友である馬・ブラックホーンを呼んでいたことが明かされます。ここで観客はホッとするわけです。しかし、ブラックホーンは大砲を曳けるようなコンディションではなく、ジョーイは自ら大砲を曳くという男気を見せる……というこのシークエンス。観客の心理をうまく弄んでくれて、さすが老練の手腕です。

いきなり中盤の話になってしまいましたが、まずオープニングでイングランド南西部・デヴォンの広々とした風景が映し出されます。これが遠景まで非常に美しく撮影されています。この風景だけでも一見の価値があります。

映画はジョーイが戦場を彷徨い、英国軍士官、独軍脱走兵、仏人の少女と祖父、様々な人と出会い、そしてジョーイを追って戦場に志願したアルバート(ジェレミー・アーヴァイン)と再会するまでが描かれます。アルバートの父・テッド(ピーター・ミュラン)がジョーイを競り落とすオープニングから、再びジョーイが競りに掛けられるクライマックスまで、映画として非常に美しくまとまっています。それこそ出来過ぎなくらいに。

また、『プライベート・ライアン』(1988)では正直ゴア趣味に寄っているのでは、というくらいに戦場描写に力を入れていたスピルバーグでしたが、本作では見せるべき死のシーンと、暗示させるべき死のシーンをしっかりと切り分けており、中盤の激戦もしっかりと映画の中にとけ込んでいます。正直『プライベート・ライアン』は序盤の上陸シーンだけ浮いている感がありましたけれど。特に、ニコルズ大尉(トム・ヒドルストン)の死を、その直前の彼の表情と、だれも乗せずに独陣地に突入するジョーイという映像で表現したシーンはその白眉でしょう。

オープニングとクライマックスのデヴォンの美しい風景の間に、第一次世界大戦の過酷な映像が挟まれるわけなのですが(第一次世界大戦の描写自体も、じょじょに近代兵器が登場する様をしっかりと描いています)、途中で挟まれる病弱なフランス人少女・エミリー(セリーヌ・バッケンズ)と祖父(ニエル・アレストリュプ)のエピソードはほっと一息つける貴重なシークエンス。また、クライマックスに絡んでくる重要なシーンでもあります。

正直、きれいにまとまりすぎている感も少々あるのですが、映画として非常に魅力的な映画でした。ただ、なんで英国軍も独軍も仏人もみんな英語しゃべってるんだろう……。いや、アメリカの観客は字幕苦手っていう話は聞きますがね。やっぱりそれぞれの国の言語で喋ってくれたほうが、臨場感はあった気がします。