製作国:日本
上映時間:106分
監督:羽野暢
出演:栗田正寛/木本順子/加藤千果/浅井誠

新宿のK's Cinemaにて、一週間限定レイトショーで公開されていた本作を、最終日に何とか見ることができました。3月下旬にDVDの発売が予定されているらしく、その兼ね合いで劇場公開が実現したとも思われますが、やはり映画は大画面で見たほうがいいですね。特に本作は特徴的な色彩や、小道具へのアップを多用した手法で没入感の高い映画のように感じられたので、取立て映画館向きのように感じられました。

いつもはAllcinema Onlineの解説を引用しているのですが、本作の紹介は掲載されていないようですので、劇場で配布されていたチラシのあらすじを引用してみます。

乾季が終盤を迎える頃、モスリン橋の袂では水死体が頻繁に釣り上げられていた。三流雑誌の記者・蓮見は、先輩カメラマン・ツゲの失踪を追って渡った遊郭島・カンテラ島で、儚げな美しさを持つ娼婦・白亜と出会う。そしてツゲの情報や、夢を喰らうという巨魚の伝承を引き出そうとしながらも、いつしか白亜の虜になってしまう。そんな折、白亜の客が過去に何人も変死しているという噂を公安当局から漏れ聞く。「島へは二度と近づくな」謎の警告電話や、姿の見えぬ巨大な魚影に動揺する蓮見は、白亜を島から連れ出し、二人で暮らし始める。しかし街が雨季へと突入する頃、新たな水死体が上がった…。

「乾季」「雨季」「政府公認遊郭」など、実在する日本とは相容れない単語が、この映画には頻出します。一見現代日本にも見えるのですが、電話がやたら古かったり、スコールが一般的に降っていたりと、どうやら現実の日本とは少しパラレルな世界のようです。そういった設定が、とくに語られることなく、物語のなかで徐々に説明されていきます。……というのとも違うな。ただ、そこにあるものとして描写されていきます。その感覚が非常に心地良い。

また、この映画のカンテラ島の描写は非常に幻想的。青・緑を基調にした色彩や、ほとんど常に画面に写りこんでいる水、そして娼婦たちのカラフルな衣装が、明度の高めな映像で描写されたかと思うと、真っ暗な闇の中に浮かび上がる懐中電灯の明かりやカンテラの明かり。そして物語の筋とは関係なくクローズアップされる船の縁などの小道具。後半、島外の世界が描写されるのですが、そちらは色のくすんだ描写となっており、きれいな対照が描かれています。

ストーリーは、先輩カメラマンの失踪の謎を追っていく、サスペンス仕立てになってはいるのですが、そこに怪魚の伝説や、カンテラ島の風俗が混じりあい、幻想的な印象を与えるものになっています。それだけに、失踪の真相が人為的なもの寄りという結末は少々残念だったような気もします。ただ、まぁ、他にどうすればいいのかと問われるといいアイディアは思いつかないので、妥当な落とし所のような気もしますが。

主演の栗田正寛は、タイの俳優パワリット・モングコンビシットに少々似たところのある印象の俳優さん。取り立てて演技が上手い、という印象は受けませんでしたが、終始むっつりとして感情を出すことの少ない蓮見の役には、ぴったりとハマっている気がしました。また、公安の刑事を演じた浅井誠の異様な佇まいや動作は非常に印象に残りました。

映画上映後、本作の監督である羽野暢さんと、テレビアニメ『蟲師』の演出をされた長濱博史さんの座談会が行われたのですが、終電の関係で30分ほどで中座しなくてはならず、非常に残念でした。